6×6 (Six times Six)

「トーコおばさまの『悔い』って、なんだったの? こんな風に、何年も何年も心の一部が彷徨い続けてしまう程の後悔って、何だったの?」
「ん? だからデートだよ。ワタシ、男の子とデートって、一度もしたことなかったんだ」
「え! ホントにそれがおばさまの『悔い』だったの?」
「そうよー。何かおかしい?」
「なにかもっと重要で、重大なことかと思った」
「利昭さんとの結婚を、後悔してるワケじゃないのよ? でもさぁ、ワタシ、ホントに心から『素敵だな』、『カッコいいな』って思う男の子とデートしたことって、なかったんだもん。ワタシ、恋って一度もしたことないまま結婚して子供産んじゃったのよねぇ……」
「うーん……そのお相手に戸川じゃ、ちょっと荷が勝ちすぎだったかもね」
「あら? そんなことないわよ。戸川くん、素敵だと思うわよ、ワタシ」
「えー!」

なんだか好き放題言われているような気がするが、全力で気にしないことにする。
トーコは居住まいを正し、野宮に向き直ると、怖い程真剣な表情で言った。

「結衣ちゃん、自分だけは誤魔化しちゃダメだよ……ワタシみたいになっちゃうよ?」
「えっ!?」
「結衣ちゃん、自分でももうわかってるでしょ? 自分にだけは、嘘ついちゃダメ。多分ね、戸川くんも満更でもないはずよ」
「なっ!   塔子おばさま!?」
「欲しいものも、欲しい人も、うやむやにしてはダメよ。さて……そろそろのようだわ」
「行っちゃうの?」
「ええ。そもそもワタシ自体、本来存在しないほうが良いものだし」

トーコは野宮の背を抱き、じゃあね、と言った。

真夏の幻のような物語は、トーコの意味深な言葉と僕達の微妙な空気を残し、炭酸の泡のように弾けて消えた。

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