6×6 (Six times Six)

『お志ど里』の横入口を左手に、景品交換所とイスラエル料理店とバーを抜け、線路沿いを歩く。
僕達の右手を、西武池袋線の『銀河鉄道999』のラッピング車両が通り過ぎる。

「あ! 鉄郎とメーテル!! 今あんなの走ってるんだ!!」
「見たことなかったの?」
「ワタシ達は、それぞれの時代の牢獄に囚われてるようなものだからね。基本的には『本体』が生きてた時代を永遠に反芻し続けることしかできない。だから、ワタシ達はみんな、新しいモノに飢えてるよ」
「そっか。今は区役所に住民票取りにいくと、銀河鉄道999の主要キャラと、練馬区のキャラクターの『ねり丸』の透かしが入った状態で発行されるよ」
「やだ、さすがにそんな子供騙しの冗談、真に受けないわよ」

いや、冗談ではないのだけど。
芸大側に戻る踏切を渡り、市場通り商店街を散策する。

「市場も、もうなくなっちゃったんだね」
「何年か前に解体されたらしい」
「そっかぁ……お豆屋さんで売ってたお煎餅、おいしかったんだけどなぁ……あ!これはまだあった!」

トーコはたいやき屋の横のおもちゃの乗り物にテンションを上げる。

「100円、入れる?」
「んー、いい」
「そっか」

他愛もないやり取り。意味などない街歩き。トーコの指先が、僕の左手の小指を摘む。
一瞬、彼女は立ち止まり、後ろを振り向いた。僕達を見続けているカメラを確認するかのように。

「ん?どうした?」
「なんでもなーい♪」

浅間神社を過ぎ、駅の芸大側の出口まで来た。
このまま歩けば、芸大に着く。

「もうすぐ芸大だぞ」
「そうだねぇ」
「デート、するんじゃなかったのか?」
「ん?    今してるじゃん♪」
「いや、どこか行ったり、何かして遊んだりとか、しなくていいのか?」
「……そういうのは、なーんにもできないよ。さっきも言ったように、ワタシはココに縛られてるからね。でも……」

きゅ、と、一瞬トーコが僕の指を強く握る。

「悪くなかったよ。久しぶりに新しいモノ見れたし、初めて男の子とデートできたし」
「はじめて?」
「そ、初めて。ワタシの『本体』はさ、芸大出てすぐお見合い結婚したの。さして好きな人ではなかったけれど、どうしてもダメって程嫌いでもなかったしね。子供ができてからは、ジェットコースターみたいな日々の中、パレットもナイフもカチカチの絵の具が載ったままほったらかし。あんなに燃えていた日々が嘘になってしまったみたいで、物置の片隅の画材を見るたびに、過去の自分に責められてるみたいだった」

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