6×6 (Six times Six)

「そっか、『トキ』はもうなくなっちゃったんだねぇ……」

トーコがぽつりと呟く。
そういえば聞いたことがある。僕達が入学する何年か前まで、ここに江古田最古の喫茶店があったらしい。

「トーコが居た頃は、ここ、喫茶店だったのかな?」
「うん。みんなでよく来た喫茶店が、ここにあったんだ。大盛りのナポリタンを、みんなで食べたっけ……」
「トーコはさ、霊とかそういう存在なの?」
「あは……結構ストレートに訊いてくるね、キミ。うーん……そんなもののようでもあるけど、ちょっとニュアンスが違うのよねぇ……」
「なんだか歯切れが悪いね」
「『コッチ側』の世界は、別に死者だけの世界ではないのよ。ここはね、終わってしまった世界」
「終わった世界?」
「そう。生者にせよ死者にせよ、人は生きた時間の中で、必ず悔いを残す。『あの時ああしていれば良かった』、『あの時あっちを選んでいれば』ってね。そんな強い強い悔いが、人の形になって吹き溜まっている場所が、『コッチ側』の世界なんだ」
「トーコも、何か悔いがあるの?」
「あるよ、特大のがね。ワタシ達は、本体が持ってる悔いが解消されない限り、ココにずっと縛られる。いつまでも、いつまでも」
「待って、さっき『生者にせよ死者にせよ』って言ってたけど。じゃあ、死者が本体のヤツは……」
「自力で解消することができない以上、永久にココに居るしかないわね。ワタシの『本体』も、既にこの世にはいない」
「それって……」
「ああ、心配しないで。アナタがどんな想像をしているのかわからなけれど、ココで暮らすのもそんなに悪いもんでもないわ。ただ、『本体』がもう居ないのにワタシだけこんなトコに居るのもなんだか具合が悪いじゃない?  だから、あなたに協力して欲しいの。『本体』がもう死んじゃってる以上、こんなチャンスが巡ってくることは、多分この先もうないだろうから」
「OK、で、僕は何をすればいい?」
「あら?  昨日言ったじゃない。デートよ。ワタシと、デートして欲しいのよ。もう少しだけ、ワタシに付き合ってくれる?」

トーコに促されるままに立ち上がり、店を出る。野宮、すまないが支払は任せた。

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