6×6 (Six times Six)

「モテなさすぎて遂に妄想を具現化するに至ったか、戸川」

その翌日、事の次第を聞いた文芸学科の野宮は、失礼極まりない台詞を吐くと、カワサキのバイクのような鮮やかなライムグリーンのネイルに彩られた細く美しい指でポテトピザを千切り、おもうさま齧りついた。
過去一瞬とはいえ野宮に好意を抱いていた事実は、その後二人でしでかした様々な悪事や若気の至りを経て、うやむやになりつつあった。
人間的好意は変わらず持ち続けているが、今や『悪友』にカテゴライズされつつある野宮結衣に色っぽいイメージを描くことは、ある種タブーであるかのように感じられてしまう。いずれ野宮か僕に恋人でもできたなら、この心地よい関係にも見直しを図らねばならないだろう。
その事を思うのは、少しだけ憂鬱だった。

「定量化できれば世紀の大発見だな」

憮然と僕は返す。

「まぁ軽口はさておき、だ。戸川よ、キミはちゃんと食事を採っているのか?」
「脳機能の障害による幻覚の線は僕自身疑わなくもなかったけど、ちゃんと喰ってるよ」
「昨夜は何を?」
「玄米粥」
「砥いでいない米は玄米ではないし、水盛りを間違えて炊いたご飯を粥とは言わない」
「なぜそれを知ってる?」
「キミの普段の昼食のチョイスを見れば、察するのは容易だよ。味噌汁くらいは作れるようになっておけ。自分の体の栄養を賄える程度の調理技術は、現代人の基本スキルの一つだ……と、話が逸れたな。芸大は天然養殖問わず変人揃いとはいえ、そんな素頓狂な服装の女は、とんと見かけたことがない。そして、キミの脳の機能も正常だと仮定したならば……」
「その部分が仮定とは、どういうことだ?」

野宮は含み笑いを浮かべ、僕を上目遣いに見遣ると、言った。

「芸大怪異譚。私好みのネタだ」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です